最後まで怪我なく全員で、という言葉。
それは、舞台が始まる時に、スタッフ・出演者はもちろん、すべての出演者および作品のファンが多かれ少なかれ頭に浮かべるはずの言葉。
アクションの多い作品ならなおのこと。
板の上にいる以上、当然誰一人として、怪我をしてもいいとかカンパニーに迷惑をかけてもいいとか思ってやっているわけではない。でも、不慮の事故というのは誰にでも起こりうる。
大きな演劇ならメインキャストの代役、いわゆるアンダーは常に立てているだろうけど、昨今の人気実力のある役者を奪い合っている状態のてんご界隈では、メインに据えたキャストのアンダーをあらかじめ立てるのは難しい事だろうと思う。
『K』というカンパニーは、大きな過去を抱えている。
当時今の推しやKステを追っていなかった私が偉そうに言う話ではないけれど、それでも界隈のおたくならだいたい耳にした事がある話だと思うし、衝撃的な事件だった。
テニミュを追ってた頃に何度か急遽出演者が変わったり、メインキャストがインフルで止むを得ず休演したことは確かあった。他の公演で大きな事故があって公演自体なくなった事もある。けど少なくとも私の知っている範囲では、.5界隈で、本番の真っ最中にしかも大千秋楽の公演中に出演者が欠け急遽演出を変更して最後までやり切ったってなんてのは他に記憶にない。
だからこのカンパニーに関わる人たちは、その言葉を特に重く受け止め、何度も繰り返し繰り返し口にする。それはもう不自然なほどに。
かのKステ2から、無事全員で走りきれた静かなロスモワを挟んでの今作。過去最高に殺陣シーンが多いと言われる作品だということもあったと思う。
でも、あまりに繰り返されるその言葉を、失礼ながら私は呪いのようだと思っていた。だって他にもいろんな意味で危険な作品はたくさんある。みんな、最後まで頑張ります的な文言はもちろん口にする。でも少なくとも、「最後まで怪我なく全員で」という言葉をこんなにも不自然なまでに関係者が繰り返す作品を他に知らない。それは、推しくんにしてもしかり。
リアタイで追ってはいなかったと言っても、やはり推しの過去に関わるひとつのエピソードとして2の件は知っているから、その言葉に他の舞台以上の重みがあることはわかる。わかるけど、だからこそ不自然に繰り返されるその言葉が私はなんだか怖かった。
怖いってのは別にフラグとかそういう意味ではない。
だから、起こった事自体は別にこのカンパニーだからとは思わない。誰にでも、どの舞台にでもありうる事だと思う。それを呪いだとか、そんなオカルトな話をしたいわけではない。それは怪我をした役者さんにも、そのファンの方々にも失礼。
私が呪いだというのは「最後まで怪我なく全員で」という言葉そのもの。
カテコで一人足りなかった時、自推しでもないのに心臓がドキドキした。座長の口から語られた言葉に呆然としてしまった。
終わってから、帰り道色々考えた。そういえば初日より動きが良くなかった、とか、まだ二日目だよ?明日からどうなるんだろう、とか。観客として、カンパニーの一員のファンとしての不安、界隈のおたくとしての心配。もちろん、リアタイで知りもしないとは言え2の事も頭に過ぎった。他人事ながら明日は我が身だと言えるくらいには推しくんも危険な殺陣をやっている。純粋に、該当の俳優さんのファンの気持ちを心配もした。
でも、一番考えたのは、「無理をして欲しくない」という事。
形を変えてでも全員でやり抜きたいという気持ちはわかる。みんなプロだし、創意工夫することで板の上に立てるのであれば、ためらいなくそちらを選ぶ人が殆どだろう。それは、怪我をしたのが誰であっても、きっと。
そういう時に、おたくは推しの選択を尊重して応援することしか出来ない。
でも、役者としての未来まで見据えて考えた時に、それは本当に「無理をして」はいないだろうか、と私は思ってしまう。言葉の呪いにとらわれすぎていないか。
もしもこれが自分の推しだったとしたら、最悪、退くという選択肢も視野に入れて欲しいと私というおたくは思った。もちろん、役柄上それが難しい事であるのは百も承知だ。それでも。
心配するのが上から目線なんて話題もあったけれど。
彼らはプロだから、だっけ?
けど、プロだからこそそういう部分では、自分自身の状態を客観視することよりも、カンパニーやお客様への責任感や役者としてのプライドを優先する人が多いのではないか?と思う。特に、役者としてはまだ若手でも界隈ではベテランと呼ばれる層の人たちはみんなそういうところがある気がする。
最後まで怪我なく全員で、という言葉。それはカンパニーとしてとても大切な心構えだけど、決して「呪い」であってはならない。
でも、本人が、そして皆がそういう決断を下したのであれば、我々おたくはやっぱり心配を押し殺してただその選択を尊重して見守ることしか出来ないので。
どうか今度こそ、最後まで誰も傷つく事なく笑顔で終われますように。